笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字482は「渡」。利尻島に泳いで渡った熊のことを考える

 今日の漢字は「渡」。渡航、渡米、渡来、世渡り、渡哲也。

 

    定説では人類は、約5万年前にアフリカから全世界にひろがった。

 

    アジアのホモサピエンスユーラシア大陸から台湾、八重山諸島、沖縄と北上し、日本列島へと行き着いた。

 

    そんな台湾から黒潮の激流を抜けて、日本最西端の与那国島に手作りの船でたどり着けるかを検証した本「サピエンス日本上陸」を読んだ。

   

    古代人になりきってチャレンジする企画だが、よくこういうことを思い付くものだと感心した。

 

    草で船を作ったり、大木をくりぬいたりして船を製作し、古代の人々は未知の島を目指したのだろう。それは命がけでもあり、将来の繁栄も考えて多くの男女が何世代にも渡って地道に島に渡り続けた結果、今の日本という国がある。

 

    そして現代。古代人と同じように、まだ見ぬ地に渡ろうと大冒険した熊がいた。

 

    今年の春、北海道から利尻島にヒグマが泳いで渡り、しばらく島にいたものの、再び姿を消したことがニュースになった。

 

    何とガッツ溢れるチャレンジングなヒグマよ。

 

    目的はただひとつ。メスと出会って交尾、繁殖すること。

 

    竜宮城のパラダイスを夢見たオス熊は残念ながら伴侶どころか友達にも会えなかった。ましてやエゾシカやキタキツネも生息しない孤島ではたんぱく質も摂取できず、大きく落胆して再び泳いで本土へ帰ったものと推測される。

 

    その後ろ姿は悲哀に満ちた中高年サラリーマンの様相だっただろう。

 

    オス熊にしてみれば、海にぽっかり浮かぶ利尻島はさぞかし魅力的な島に写ったに違いない。人間ですら泳いで渡るという無謀なことなどできないが、それに敢えて挑戦したのだから、動物にも好奇心があるのだと生物学的に立証されたような気がする。

 

   おそらく本土ではメス熊にモテなかったか、もしくは縄張り争いに敗れて自暴自棄になり、精神的に病んでいたのかもしれない。アメリカ大陸に渡るピルグリムファーザーズのように、夢よもう一度の不退転の決意で泳ぎはじめたのかもしれない。

 

    島にはシカやキツネなどの野生動物はいないものの、ドングリなど木の実は食べ放題。食欲を満たす点ではライバルがいないからの天国なのだろうが、「エッチがしてー」の意気盛んな若い熊なら、メスの一匹たりともいない生活空間には耐えられなかったのだろう。男からしてみると、何となく気持ちはわかる。人間だって無人島に一人流されれば3日で発狂する。

   

    利尻島に渡った熊も、人(熊)が恋しくて「こんな誰もいない島はつまんねー」と去っていったのだ。

 

    一方、島の住民はひと安心。怖くて夜も外出できなかったが、忽然と熊が居なくなり、再び平穏が訪れた。島の生態系を壊す珍客に来てほしくはないが、逆に島に有史以来から住む動物や昆虫にしてみれば、そもそも人間には来てほしくないと思っているかもしれない。熊が来たと騒ぐのではなく、動植物と共生する謙虚さを人間は持ち続けなければならないと思う。

 

熊に関する記事はこちらもあります。

 

laughing-egao.hatenablog.com

 

 

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渡る世間は鬼ばかり