笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字401は「宮」。紀行作家宮田珠己氏について考える

今日の漢字は「宮」。宮殿、王宮、離宮宮城県、竜宮城、宮大工、宮本武蔵、三宮、神宮球場

 

    私の好きな紀行作家に宮田珠己氏がいる。旅をしまくりたいと会社を20年前に辞め、以来、紀行エッセイストとして活躍している。

    国内の紀行が主戦場だが、巨大仏や迷路温泉、スピリチュアルな所など、訪問先が一風変わっている。紀行エッセイの分野はある意味レッドオーシャンで、特長を出していかないと差別化ができないし、売れないという大人の事情もあるのだろうが、彼の紀行は、マニアックであることに加えて、感動というよりも、一歩ひいてシニカルな視点で見る所が変わっている。

    地元の人しか知らないような、とてもディープな情報をどこからか仕入れてきて、突撃レポート風に文章が展開していく。そんじょそこらの観光地を巡るわけではない割には、「ゆるゆる」「ふんわり」という形容詞が相応しい、何ともかみごたえのない独自の宮田ワールドが繰り広げられる。

 

     旅行がしたくて会社を辞めて紀行作家になったが、サラリーマン時代と作家になってからのストレスの度合いについて、彼はエッセイの中でこう言っている。

   ストレスを5段階評価した場合、会社員時代は月から金がストレスがマックスの5。その代わり休みの土、日はゼロ。よって、ストレスの総量=ストレス×日数で5×5=25。

    一方、作家のストレスレベルは普段は3。ただしこれが土日も含めて一週間続く。よってストレス総量は3×7=21。だから作家の方がサラリーマンよりストレスは少ない、と結論付けていた。

 

  んー。確かにサラリーマンは月~金で働き、土日休みのローテーションの繰り返し。平日はしんどいが、土日はストレスレスだが、一方の自営業は、基本休みがないから、ストレスは低位ながらもエンドレスで続く。メリハリのあるサラリーマンと、エンドレスで一定のストレスレベルが続く自営業と、どちらがいいのか唸ってしまうが、脱サラして起業する人は、平日のストレスフルな生活に我慢ができないというのも、あるのかもしれない。

 

    そんなふざけたことを考えながら旅をする宮田氏の本「47都道府県正直観光案内」を読んだ。自分が行った47都道府県の名所旧跡を正直な感想で紹介をしていくものだが、案の定、有名な観光地に加え、「何それ」の宮田風お勧めワールドが随所にちりばめられている。

     例えば高知市内にある沢田マンション。日本人の九龍城というようだが、民家?。千葉県は房総半島内陸部のトンネルや洞穴群。これって観光地?。大阪ではコテコテの神様がいそうな石切神社。敢えてそこに行く?。他にも岐阜県にある、異形の山城の苗木城や、岡山県笠岡のカブトガニ博物館など、誰も知らないようなディープな変化球の数々に、こちらは目が点になる。

   

    彼の感情をあまり表に出さない飄々とした筆運びは椎名誠に通じるものがあり、何となく憎めない。所々「なんじゃそりゃ」の突っ込みを入れるのだが、宮田氏にとっては想定の範囲内。逆に突っ込まれるのを楽しんで書いている確信犯であり、一枚上手である。

 

    あとがきがまたいい。今回取り上げた観光案内はすべて個人の感想で、普通ガイドブックは大人の事情が混じるが、逆に個人目線でそんたくのないガイドブックを作りたかったとのこと。最後に「他にいいところがあれば教えてください」と開き直って締める。

 

    何とも最後も煙に巻かれたような無責任男の終わり方だが、その裏には全国くまなく旅をし、自分なりのフィルターを通じたお薦めの確固たるデータベースができているからこそ言える言い訳。逆に「俺をびっくりさせるような珍百景を出してこんかい」と挑戦状とも受け取れるあとがきに、私としてはぐうの音も出ないわけであり、そんなこんなでまた次回作の紀行エッセイを読んでしまうような気がする。

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宮中晩餐会の料理はどんなものだろうか