今日の漢字687は「計」。腕時計を着けることがなくなった
今日の漢字は「計」。計算、計略、計画、合計、統計、家計、温度計。
腕時計というものをしなくなった。
肌身離さずスマホを持ち歩くようになって以降、時間を確認したい時はスマホを見れば済むから、わざわざ腕時計を着けるという習慣が無くなった。
腕時計で思い出すのは、20年以上前に、お客さんを接待した時のこと。
上役の課長と平社員の私が、取引先のお客さん2人を接待。一次会を小料理屋で行い、二次会はスナックに行った。
それなりに盛り上がり、お客さんもいい気分。その時、私は「そろそろ終わりの時間かな」と思わず自分の腕時計をちらりと見た。その場は特に何も起きず、そのあと30分くらいでお開きとなり、接待は無事終わった。
翌日、私は一緒に行った課長に呼ばれた。
「あー君、昨日はお疲れさん。しかしひと言、言っておくが、お客の前で腕時計を見てはいけないよ。それはタブーだ」。
私はぽかんとした。昨日の二次会のシーンのことだ。
「時計を見るということは、もう私は帰りたいんですと言っているようなもんだ。昨日はお客さんが気づかなかったから良かったが、人によっては露骨に嫌な顔をする人もいる。俺とはもう一緒に飲みたくないのかとヘソを曲げられてみろ。接待の意味が無いぞ。気を付けろ」
「すいませんでした。でもスナックって壁時計とかないので、時間を確認するのは難しいのですが」
「トイレに行ったふりしてみればいいだろ。あとはこっそりホステスに聞くとか。私の場合は、お客の右腕をそれとなく見るね」と課長。
「腕って?」
「相手が着けている腕時計を見るんだよ。グラスを持ち上げた瞬間とか、カラオケでマイクを握った瞬間とか、時計の文字盤がこちらを向くことがあるだろう。その瞬間を見逃さず、何時何分かを確かめるのだよ」
私はそこまで課長が気を使って接待していることにびっくりするとともに、自分の腕時計を見ないことで、お客を不快にさせない接待の極意を課長から教わった。
あれから20年以上経つが、腕時計をする人が減り、相手の腕時計を視認して時間を確認する行為は不必要となった。なぜなら、自分のスマホをチラ見すれば済むことだから。
スマホはメール、ライン、電話の着信を都度確認する行為があるし、それをチラ見したところで、仕事のメールかもしれないのでお客には失礼でも何でもない。その際にメールの着信を見るフリをして時間を確認すればいいだけの話である。
ところで、性格診断では、腕時計をしない人は不自由さを嫌う、何にも縛られたくない人だそう。こんなタイプはサラリーマンに向いていないというから、私はまさにサラリーマンに向いていないことになる。
雑誌広告では、とく高級ブランド腕時計の広告が目につく。何百万もする腕時計に私は価値を全く見出さないが、世の中、高級腕時計をするのが夢という人が一定数いる。気持ちはわかるが、高いブランドの腕時計を見せびらかせる時代でもなく、腕時計だけピカピカでも、服はよれよれ、靴はぼろぼろだと、バランスが悪い。そもそも高級腕時計をする男を「素敵な男性」として見る成金憧れの女性は、絶滅危惧種ではないかと思ってしまうのである。