笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字349

の漢字は「煙」。煙突、喫煙、禁煙、煙管、分煙、煙草、煤煙、土煙、狼煙。
   煙といえばタバコであるが、最近はどこも分煙が進んでおり、タバコの煙にむせぶことはなくなった。昔の職場では、先輩がタバコの火で机の書類をよく焦がしていたし、電車で向かいの乗客のタバコの火種が私に手に飛んできて危うく火傷しそうになるなど、タバコのトラブルは日常でも多かった。分煙によってそうしたトラブルが少なくなっているのは良い。

   タバコにまつわる思い出は、やはり修学旅行。6人部屋で一緒になった同級生Aは、日ごろから悪態をつく、ちょっと不良な悪ガキ。
    案の定、京都の宿泊先で早速、部屋でタバコをプカプカし出した。先生が来るから止めとけと注意するも、Aは大丈夫だと涼しい顔。飲み干した缶ジュースを灰皿代りに、煙も充満しないようにと、窓も開けつつ、夕食までの雑談に更けっていた。

 

    そこへ突然修学旅行に同行してきた担任の先生が部屋に登場。あちゃー。予想外の展開にAはもちろん、他の5人も慌てた。

 

    先生は、「夕食の時間が変わった。1時間ずれたので、19時に食堂に集合」と告げた。

 

   丁度その悪ガキAはタバコを吸っていたところで、一瞬の隙を見て、持っていたタバコを慌てて火がついたまま学生ズボンのポケットに押し込み、火を素手で揉み消した。手は火傷しているのだろうが、それどころではない。


   喫煙が見つかれば停学。いくら修学旅行中といえども、厳罰が下されるのは必至。タバコとは無縁の他の5人は、それでも火の粉が飛ばないよう、ここは大人しく先生の言うことを聞いて、早く出ていってもらおうと、「はい、わかりました。時間になったら行きます」と素直に返事をした。

 

   先生は、一瞬、辺りを見回し、「んー。何か臭くねーか」。部屋は一瞬氷つき、静寂な空気が流れるとともに、先生が次に何を言うか、私を含め6人に緊張が走った

 

   「おい、○○、お前何かしていなかったか?」と、先生はいきなりさっきまでタバコを吸っていたAを名指しした。

ポケットに手を突っ込んでいるのを不審に思ったのだろう。

   Aは「何もしてないっすよ」と、ポケットに入れた手とは逆の手を必至に横に振って否定した。

「お前ら変なことしたら、京都から強制送還すっからな」と言って先生は何事もなかったかのように立ち去っていった。

    肝を冷やすとはこのこと。アブねーと言った同級生は、Aに、「手、大丈夫か?」といいかける以前に、Aはもう洗面所に行っており、タバコをもみ消した手を水道の水で冷やした。顔面蒼白、見つからなかった安堵感よりも、火傷のダメージの方が大きく、そのあと彼は内緒で薬局に行き、塗り薬を購入していた。

 

     私はこの場面を反芻するに、先生は多分わかっていたのだと思う。タバコの煙は独特であり、直前まで吸っていたのであれば、匂いは残る。先生は本当は何か言いたかったのだろうが、旅先でもあり、悪ガキ生徒を処分すれば、他の生徒にも動揺が広がり、楽しい筈の修学旅行が台無しになることを怖れた。だから何事もなかったかのように立ち去ったのだ。
   ある意味大人の対応であったと私なりには解釈している。

   ちなみにAは、旅行の後半はすっかり大人しくなり、タバコに手を出すことも無くなった。おそらく彼の修学旅行の記憶は、神社仏閣を回ったことや、同級生との風呂や食事、買い物、楽しい会話ではなく、タバコの火を揉み消して火傷した記憶が大半を占めているのだろうなと、少し同情している。

   悪いことすれば痛い目に会うというのは、いつの時代、いつの世代も一緒の、不変の法則なのである

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最近は煙突のない家が多く、サンタも困る