笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字988は「紙」。震災時、日本製紙石巻工場は頑張った

今日の漢字は「紙」。紙面、全国紙、本紙記者、紙幅。

 

「紙をつなげ!彼らが本の紙を造っている」(佐々涼子著)を読む。

 

 東日本大震災で未曾有の被害を受けたにもかかわらず、社運をかけて復興した日本製紙石巻工場の再興を追ったドキュメント。多くの住民が犠牲になった津波被害の巨大さと、それにもめげず工場を何とか復興させようと奔走する社長や工場長、現場の社員たちの奮闘ぶりが描かれ、あらためて目頭が熱くなった。

 

 普段我々はあまり気づかないが、日常生活で紙に囲まれて生活している。トイレにはトイレットペーパー。朝には新聞やチラシが配達される。本屋では文庫や新刊が所狭しと並ぶ。会社にはコピー機やプリンターがあって、毎日さまざまな書類が紙に印刷され、使用される。当たり前のことなのだが、それらはすべて製紙工場で紙が生産されるからこそ成り立っている。日本製紙石巻工場は、震災後の津波で機械が壊滅し、復興まで数年かかる見通しだった。しかし出版社や新聞社からの「本や新聞を印刷したい」との声の元、「被災地で避難生活を強いられる子どもたちに漫画を届けたい」として復興を急ぎ、半年でひとつの紙製造機を復活させた。

 

 社員には津波で家族や親戚を亡くした人も多い中、工場を復興させようと頑張る姿はまさに「大和魂」「根性」「責任感」を感じさせる物語であった。

 

 その中の記述で印象に残ったのは、出版社が出す文庫本は、各社で紙の色が微妙に違うのこと。著者によると、講談社は若干黄色、角川は赤くて角川オレンジという。新潮社はもっと赤。各出版社は文庫の色に「これが俺たちの色だ」と強い誇りを持っている。紙の色もそうだが、薄さやめくり感など文庫の品質に対する出版社のこだわりは妥協がない。紙の品質をいつもと同じように保つことは、製紙会社の大きな使命なのだ。日々何も考えずに文庫を読む私としては、勉強になった。早速自宅にあった新潮社と講談社の文庫の紙の色を比較したら、確かに色が違った。こういう細部に出版社の配慮があることに感心した。

 

 日本製紙東日本大震災の復興費用は、東京電力に次いで1000億円と巨大なものになった。そこまでして日本の紙文化守ろうとする製紙工場の存在は大きいとあらためて感じた。

 

 しかしながら、IT化の進行で紙の需要は右肩下がり。業界全体で2011年には1500万トンの紙の生産量が2020年で1200万トにまで落ち込んでいる。年賀状や手紙の需要減はもちろん、新聞・出版物の減少やコロナ禍のテレワークによるペーパーレス化やイベント中止の販促チラシの減少など逆風が吹く。震災をバネに復活させた石巻工場も今後苦しい状況に追い込まれるのかは心配なところだが、未曾有の被害にもかかわらず日本の紙の供給に使命を果たす工場があったことを記憶に留めておきたいと思う。

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紙魚(しみ)は紙が好きな虫