今日の漢字983は「汎」。「かわいい」は汎用性のある言葉
今日の漢字は「汎」。広汎、汎用。
ランチの席で、会社の上司批判の話になった。
A「うちの上司って、細かくてうるさいこと言うし、人を褒めるってことが全くないんだから」
B「うちもそう。やって当たり前で、完全に上から目線」
私「そもそも今の上司連中は若い頃、褒められて育ってきたわけではなく、叱られ、叩かれて反骨心でのし上がってきた昭和気質の人間ばかり。だから、褒める発想自体がないのでは」
A「今の教育は、「褒めて伸ばすこと」よ。若い人はけなされると、ハートが傷んじゃうから、批判・否定ばかりする上司がいる会社に未来はないわ」
これを聞いて、劇作家の平田オリザが「わかりあえないことから」で述べていた次の指摘を思い出した。
日本語には、目上の人に向かって尊敬の念を示すとか、目下に向かって褒めてつかわす言葉は豊富にあっても、対等な関係の褒め言葉があまりにも少ないと指摘する。
欧米の言語ならば、この手の言葉は豊富にある。「wonderful」「great」「amazing」
「marvelous」「lovely」「splendid」。
しかし日本語には、このような褒め言葉が極端に少ない。例えばスポーツの世界で相手を褒めようとすると、外来語に頼らざるを得ない。「ナイス・バッティング」「ナイス・ショット」「ドンマイ」。
これを日本語で言い換えるとどうなるか。
「いいね」「すごいね」「やった」「やるじゃん」「素晴らしい」。どうも違和感がある。「いいバッティングだ」「すごいピッチングだ」もおかしい。褒め言葉を外国語に頼らなければならないほど、褒め言葉不足の日本語語彙なのである。語彙が少ないから、ストレートに言葉で褒める文化が定着しないというのが筆者の見立てである。
元来、褒めることは照れくさいし、恥ずかしいという日本の独特の空気感がある。褒めるには、その人のいい所を見つけ出す努力が必要であり、マイナス面を見つけ出すより難しい。しかし褒められた方は、「見ていてくれた。プラスの評価をしてくれた」との満足感につながるから、モチベーションもアップする。褒める方は、口に出せない羞恥心を打破して、「ほめる」声掛けを習慣化するしかないと思う。
ただ、平田氏は1点だけ、現代日本語にも、汎用性の高い褒め言葉を見つけた。
それは、「かわいい」。
これはとにかく、何にでも使える。
対等における褒め言葉で、これほど使える日本語はない。着ている服がかわいい、
持っているグッズがかわいい、髪型がかわいい、しぐさがかわいい。
ボキャブラリーに乏しい中高年男性は「かわいい」の表現を、「何でもかわいいってボキャブラリーがないなあ」と言うが、「じゃあ他に褒め言葉はあるのですか」と聞かれれば答えに詰まるはず。オヤジの方がボキャ貧なのだ。
「かわいい」を駆使してさりげなく褒め合う若者の行動を見習う。そのために人のいいところを見て、褒める要素を探し、適当な日本語が見つからなければ外国語も駆使して褒めてみる。そう実践していくと、人間関係はもっと豊かになっていくような気がする。