今日の漢字963は「漁」。メキシコの漁師とビジネスマンの話
今日の漢字は「漁」。漁業、漁港、漁船、漁村、大漁、密漁。
私の好きな小話に、「時間と金の豊かな生活」を象徴する小話がある。
それは、メキシコの漁師とMBAのエリートビジネスマンの会話。
メキシコの小さな漁村の桟橋に、アメリカからやってきたビジネスマンが立っていた。そこに漁師が船で帰ってきた。船の中には獲ってきたばかりの新鮮な魚が少しだけ入っていた。
ビジネスマンはその漁師に尋ねた。
「その魚を獲るために何時間くらい漁をしていたのか」
「ほんのちょっとの時間です」と漁師は答えた。アメリカ人は尋ねた。
「どうして長い時間、漁をして、たくさんの魚を獲らないのか」
「家族が食べられる分があれば十分です」
「余った時間はどうしているのか」
「たっぷり寝てから漁に出て子供と遊び、妻と過ごす。それから村に行き、仲間と酒を飲み、ギターを弾く。忙しい人生なんですよ、セニョール」
アメリカ人は呆れて笑った。
「私はハーバード大学を出てMBAも取得している。その私が君にアドバイスしてあげよう。まず君はもっと長い時間漁をすべきだ。たくさんの魚を獲って、金を稼ぎ、もっと大きな船を買う。そうすればもっと稼げるし、船を二艘三艘手に入れることができる。やがて船団を率いて、大量の魚を獲る。そうすれば、缶詰工場を作って、製品に加工して大量に売りさばける。そうしたら、この漁村を出て、もっと大きな都会に行き、やがてはニューヨークに住んで、大きな会社を作って、それをさらに大きなものにするんだ」
「そこまでなるのに、どれくらいの時間がかかりますか、セニョール」
「20年から25年かな」
「その後は何をするのですか」
「タイミングが来たら、株式公開して市場に株を売る。すると億万長者になれる」
「億万長者になって何をします?」
「引退して、小さな漁村にでも移り住んで、そこで子どもたちと遊び、妻と過ごし、仲間たちと酒を飲んで、ギターを弾くのだ。どうだ、素晴らしいだろう」
この小話には、日本版もあるが、豊かな人生とは何なのかを考えさせられる。
先日、元ZOZO社長の前澤氏が、宇宙旅行に行った。稼いだお金で自らが宇宙から地球を見たいという夢を叶えたが、そういう人は皆無。人生は1回きりなので、それはそれでいいが、もし彼が引退して毎日海辺でギターを弾いていれば、上のMBAビジネスマンの生き方を地でいくことになる。しかし、世の中には、そんな大金を手にせずとも、お金とは関係なく毎日楽しくギターを弾いて過ごしている人は世界に何十万人といる。上の漁師は、20年、25年、家族を顧みずに金を稼ぐために馬車馬のように働いて失う時間よりも、毎日を楽しく過ごす「今の時間」を大事にしている。この小話は、「結局同じ結末を迎えるのであれば、無駄な時間を過ごすことはない」こと、「人の幸せの価値基準は人それぞれで、強制することも批判すべきでもない」こと、「お金持ちになるのが本当の幸せなのか。決してそんなことはない」ことを如実に表現している。
昨今の年金問題などを通じたお金にまつわる報道の多くは、「何でもお金で価値観を判断する」悪しき習慣だと思う。人の価値観はお金だけではなく、それぞれなのだと、この小話を通じて強く思う。