笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字914は「塀」。塀の中の実態を知る

今日の漢字は「塀」。土塀、板塀。

 

    美達大和という作家がいる。作家と行っても刑務所に入る受刑者。無期懲役囚として刑務所に入りながら著書を執筆し本を出版する、珍しい経歴の持ち主である。

 

    彼は2件の計画的殺人により無期懲役刑が確定し、刑期10年以上の者が収容されるLB級刑務所に服役中である。しかも、何と彼は仮釈放を放棄し、被害者や遺族への贖罪として社会に出ないと決めて暮らしている。奥付によると彼は1959年生まれだから現在62歳。既にもう20年以上刑務所暮らしをしているというから凄まじい。一生を刑務所で暮らし、そこで人生を終える覚悟が、一般人には考えられないことだが、それだけ罪の重さに苛まれているのかもしれない。

 

   そんな彼の著作「ドキュメント長期刑務所」を読んだ。無期懲役囚の刑務所での暮らしぶりを筆者の視点からリアルに描いている。なかなか塀の中の暮らしは想像できないから、ある意味貴重な資料である。少しだけ紹介したい。

 

   まずは、日本の受刑者は約8万人いる。2001年から増え始め、それまでは5万人で推移していたが、急増。2017年度から民間企業の参加を得たPFI方式による社会復帰促進センターが数カ所できている。

    LB刑務所とは、全国85ケ所の刑務所の中の最高位の場所。いわば極刑の刑務所で、矯正不可能とも言われる犯罪者が収容されている。全国に無期懲役囚はおよそ1800人いて、最もワルい奴らがここに収容される。そのうち平均で刑務所にいる年数は31年。無期懲役囚といってもまじめに勤めれば仮釈放として出所できるが、30年も塀の中にいると、浦島太郎状態になると思う。長い人では50年以上服役する人もいて、仕事をしなかったり、態度が悪いと仮釈放期限が引き伸ばされる。半世紀を塀の中で過ごしていることになる。

 

    受刑者はやはり暴力団関係者が多い。自分が組のために計画的かつ残忍に殺人を犯すケースが多いため、そうなるようだ。

   刑務所ではやることがないので、皆マッチョになる。長期受刑者は気分転換に屋外でジョギングをしたりソフトボールをしたりする。だから自然と筋肉質になる。

   労働、いわゆる刑務所での作業の報奨金は最高の時給が41円。働いたお金は月6000円ほどになる。しかし刑務所内で使えるお金は月3000円と決まっていて、溜めた分は出所時に渡される。3000円の内訳は、日用品や本、雑誌を買うお金である。

 

    人気の雑誌は「週刊実話」「週刊大衆」。これらの雑誌は難しいことが載っていないのと、ヤクザ情報が多いので、組関係の服役囚の情報入手源となっている。

   テレビの視聴タイムは午後6時から8時55分まで。番組はくだらないものが多く、ドキュメンタリーはない。ドラマの殺人シーンでは、囚人たちから「あの血の出方はおかしい」と異議が入る。

    囚人のIQは社会一般人よりも低い。社会生活の中でほとんど学習してこない人が多い。学習していないから、言語性知能は低い。しかし悪巧みを考える動作性知能はまあまあという人が多い。また、怠け者が多く、学習意欲はあっても長くは続かない。

 

   慰問演芸で若い女性歌手が来ると異様に盛り上がる。特に短いスカートを履いてきた女性が「今日は短いので来ました。皆さん楽しんでいただけましたか?」と言うと、会場は「うおー」と野獣の叫びと割れんばかりの拍手になる。長期受刑者にとって、生女は滅多に見られないことから、女の人が動くという光景がシュールに感じられると美達氏は述べている。

 

    最後に筆者は言う。受刑者は犯罪行為が悪いと思う概念や社会常識がなく、犯罪行為は当然のような感覚がある。受刑者には真摯な反省がない。たとえ自分に非があっても、自己を正当化することしか頭にない。長期受刑者は何度も服役したり、反社会的な人たちと暮らすうちに原理原則が麻痺してくるという。

 

   紙幅が限られるので、これくらいでやめるが、筆者は、長期受刑者が入るLB刑務所の実態を極めて客観的かつ冷静に見つめていて、とても無期懲役囚とは思えない。その視点が秀逸であるとともに、文章も達筆で、参考になった。原則は、犯罪に決して手を染めてはいけないし、そうなるとこのような刑務所生活が待っているということ。それを思うと、人間として真面目かつ真摯に行動しなければいけないと改めて思うのである。

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塀の上を猫が歩く