今日の漢字820は「攻」。攻略本が売れた時代があった
今日の漢字は「攻」。攻撃、猛攻、正攻法、専攻。
書店から消えたジャンルの本がある。
それはゲーム攻略本。家庭用ゲーム機が普及して気軽にゲームができるようになり、子供たちばかりでなく、大人たちも熱中した。
私がハマっていた頃は、ファミコンやスーパーファミコン、プレイステーション2などが主流で、スーパーマリオブラザースやファイナルファンタジー、ドラゴンクエストなどが定番中の定番であった。新作が出るたびに購入し、寝不足な時間を過ごした。
ゲームを最後まで攻略するには結構な時間がかかる。シューティングゲームのように反射神経でクリアをしていくならまだしも、ロールプレイングゲームのように先の展開が読めないと結構ストレスが貯まる。加えて各ステージのボスキャラが強いと、「どのような倒すか」を自分で試行錯誤して挑戦しなければならなかった。
そんな時に役に立ったのが、ゲーム攻略本。
ゲームをスムーズにクリアするために、いかに効率よく、時間をかけずに進めていくがが指南されていて、これ1冊あれば、ストレスなくゲームが進められた。さらに画面では気づかない秘密の地下室への扉があったり、隠れキャラが存在したりと、痒いところに手が届く記述もあり、とても重宝した。
お金のない学生は攻略本を買った友達に直接攻略法を聞き出して、その都度教えてもらうという面倒くさいこともしていた。ネットが普及する前の時代は、それくらい情報は限られていた。
だから、ゲーム攻略本を出版する会社は、発売されたゲームをひたすらやり続けるバイトを雇い、24時間ゲームをさせながら攻略方法を紐解いていくという地味な作業を繰り返した。そして他社に先駆け、我先にと攻略本を発売した。人気ゲームはゲーマーたちの攻略への渇望感も強いから、ゲームが発売されてからいかに短期間で本を出版するかが競われ、ある意味それが商機でもあったのだ。
私も一時期いい大人ながらドラクエにハマっていた。そして攻略の壁にぶち当たるものの、同僚にも恥ずかしくて聞けず、書店で攻略本を購入してきた。
さすがに念入りに研究されているだけあって、本を読んだ通りに操作すればサクサクと進む。途中現れるボスキャラの攻略やワープなど、ストレスなくゲームを進めていた。
しかしある時、「俺は一体何をしているのだ」という自己嫌悪に陥った。
つまり、ゲーム攻略本通りにゲームを進めて何が楽しいのかと、虚しくなったのである。
ゲームは、次に何があるかわからないから楽しく、ドキドキするはずなのに、次を予測することなく、教科書通りに淡々と進める姿勢に全く楽しさを感じなくなったのである。
そこで攻略本を封印し、どうしても次に進めない時だけ、手助けを受ける方向に転換し、ワクワク感を取り戻すことができた。
予定調和でいくことのつまらなさに気づいた点で、まだまともだったのかもしれない。
これと同じようなことが未来社会に通じる。もし未来に起きることがわかっていれば、これほどつまらない今はない。「どうせ将来こうなるのだから、今これをしても仕方がない」と思ったり、極端な話、もしいついつ死ぬとわかれば、もう人生は楽しめなくなる。人生はゲームと違って、予定調和でないからこそ面白いし、未来がわからないからこそ、懸命に生きようと思える。
ゲーム攻略本と未来の人生を比較するのも無理があるが、ただ人の描いた人生をなぞることだけはしたくないと思った次第である。