笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字781は「爆」。爆風で亡くなった理科先生の同級生

今日の漢字は「爆」。爆発、爆破、起爆剤空爆、暴走。

 

    俘虜記で太平洋戦争の話を書いたが、戦争体験を語り継ぐ人々がどんどん少なくなっていき、語り継がれるべき話も風化していく。以前沖縄に行った際にひめゆりの塔の記念館で、戦争体験を語るボランティアの高齢女性がいたが、実体験を語る人が年々減っていくのは寂しい限りである。生の声は何をもってしても迫力があるし、現実味と説得力がある。いくら書物で体験記を読んでも、なかなか心に響いてこない。

   

   そんな戦争の体験談で思い出すのは中学生のとき。

   中年の理科の先生は雑談好きで、授業が本題から外れてよく脱線した。その日も理科の話から、なぜか戦争の話になり、自分の体験記を話し始めた。大概が「こんな話があったけど聞く?」と生徒に問いかけ、生徒の方もつまらない理科の授業よりよっぽど面白いので、速攻「聞く聞く」と反応。いい気分になった理科先生は訥々と語り始めた。

 

    理科先生は太平洋戦争の時小学生だった。戦況が不利になり、米軍の爆撃機B29が空襲で飛来した。当然ながら爆弾を投下してくるから、防空壕に逃げ込まなければならない。その日理科先生は外の運動場で体育の授業を受けていた。すると、聞きなれたB29の敵機の音が「ボロロンボロロン」と響いてきた。空襲警報が間に合わなかったのか、いきなり現れた戦闘機に逃げ惑う生徒たち。先生は、大人から教わった行動をとる。それは、B29が接近してくると、まずは飛んでくるB29を背に逃げる。いわゆる背走する。逃げつつ敵機を振り返り、いざ爆弾が投下されたとわかったら、回れ右して逃げて来た道を全速力で引き返す。なぜいきなり逆走するかというと、爆弾が投下されても、爆弾はまっすぐ下の落ちるわけではなく、斜め前方に向かって落ちていく。だから爆弾が投下された瞬間に来た道を逆走すると、爆弾の落ちる予測地点からどんどん離れることになる。さすが理科先生、子供の頃にとったその行動は理にかなっている。

 

   その日も多くの生徒がB29に背走して逃げ、爆弾投下と同時に逆走を始めた。しかしなかには逃げ遅れる生徒もいた。そして爆弾が地上に落ち爆発。その瞬間理科先生は地面に伏せて爆風を避けた。

    ものすごい轟音とともに、地面にぽっかり穴があいた。理科先生は、舞う砂嵐とともに数十メートル離れたそのくぼ地を見た。するとそこに爆撃に吹きとばされた同級生の遺体がころがっていた。要するにうまく逆走ができず、爆弾は避けたものの、爆風にもろに巻き込まれてしまったのだ。

 

   理科先生は私たちにこう言った「爆弾はたまたま数メートルずていたから助かった。もしちょっとでも逆走で逃げ遅れたら、今私はここに立っていない。同級生が爆風に吹っ飛ばされたあの光景は一生忘れることができない」と淡々と戦争体験を語った。

 

   もう何十年も前のことなのに、その時習った理科の法則もすっかり忘れているのに、なぜかこの理科先生の戦争の体験談は今でも脳裏に焼き付いている。それくらい強烈であるとともに、生死を身近に見た理科先生の恐怖感の生々しさが多感な私の心にぐさりと突き刺さったのだ。

 

    人を虫けらのように扱う戦争とは正当に人を殺戮する狂気の行為であり、その行為に何らプラスのことをもたらさない。未来永劫、決して無差別にこのようなことをしてはならないと改めて感じたのであった。

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爆風スランプは、我が青春のグループ