笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字739は「束」。花束の思い出

今日の漢字は「束」。札束、拘束、収束、約束、束縛。

 

  花束と言えば、定年退職する社員に、同僚「お疲れ様でした」の挨拶とともにが渡すシーンが一番印象に残る。以前は結婚退職や、出産退職で女性に贈ることが多かったが、最近ではそんなシーンはほとんど見られず、もっぱら定年退職したオジサンに贈られる花束と化している。

 

    先日、電車に乗っていると、2人組の男性が乗ってきて、一人が大きな花束を抱えていた。それとなく聞き耳を立てると、どうも今日、本日定年退職したようで、相手が「これからどうされます?」というようなことを質問していた。雇用の流動性が高い中、退職して花束を貰えるような会社・職場に勤められたことは、ある意味幸せな人生を歩んだのではないかと、ひとり妄想してしまった。

 

    ということで、花束の思い出。会社に入った頃、とある方の紹介で2、3回デートをした女性がいた。付き合うまでは至らず、さらに告白にまで至らない微妙な関係にあった。要するに私の片思い。突然、彼女の親が遠くに転勤となり、彼女もついていくことに。そこで送別を兼ねてデートすることとなった。付き合っているわけではないから、車でドライブして喫茶店でおしゃべりするというもの。彼女と他愛もない会話しながら私はふと閃いた。「やばい。彼女に何も渡すものを買ってきていない。送別のプレゼントを何か渡さなければ」と思い立ち、私は彼女に向かって「ごめん。ちょっとここで30分ほど待ってもらっていい?」と彼女の了解をとり、私は速攻で車に乗り、スーパーに向かった。向かった先にあるのは花屋。送別の餞に花束を贈ろうと考えたのだ。適当に見繕ってもらい、踵をとって引き返し、その喫茶店に戻った。彼女はなぜ私が席を外したか、特に理由は聞かなかったが、明らかに不機嫌だった。「ごめん。ちょっと用事を思い出して、電話していたんだ」と全く適当な嘘をついてやり過ごした。

 

   結局、その中途半端な中座がダメージとなり、彼女は不機嫌なまま、あまり会話は盛り上がることなく終わった。彼女に抱いていた恋心とは裏腹に、どうも彼女は私に対しては興味がないようで、その温度感を察知した私には、中座したことのフォローを最後までできずに別れの時を迎えた。

 

私「今日はありがとう。じゃあ〇〇市に行っても元気でね」

彼女「△さんも元気でいてくださいね」

私はおもむろにトランクを開け、花屋で買ってきた花束を渡した。

「ごめん。さっき席を外した時買ってきたんだ。引っ越しで邪魔かもしれないけどよかったら持って帰って」

彼女は「ありがとう」とひとこと言って花束を受け取った。しかしその表情は特に感動しているわけでもなく、何だか少し困惑しているように見えた。最後まで彼女の不機嫌さは直っていなかった。

 

   中座してまでやるような行為ではなかったか。私はその行為を反省するとともに、今更ながら自分の準備不足を悔いた。

   そして彼女と会うのはそれが最後となった。

   花束を見るたびに、あの時の彼女の不機嫌な顔が思い起こされる。それと同時に片思いが成就しなかったほろ苦い記憶が呼び起こされる。

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