笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字733は「向」。高級志向にも程がある

今日の漢字は「向」。方向、向上心、傾向、動向。

 

高級にまつわる話で思い出したことをひとつ。

   30年前のバブル経済の熱狂を知る人は今や50代以降の人間しかいないと思うが、あの頃は本当に国全体が浮かれていた。土地や不動産投機であぶく銭を手にした人たちや企業はこぞってリゾート開発に手を染めていく。北海道も例外ではなく、北海道の中心部、トマム地域というところに、その名も「アルファーリゾートトマム」として一大リゾートが切り開かれた。スキー場、ゴルフ場、ホテル、コンドミニアム、プールとリゾートの王道の作り。山の中の何もないところに30階建ての会員制リゾートホテルを2棟も建て販売。それもほどなく完売という、今では信じられない熱狂状態にあった。

 

   そんなトマムリゾートに1度は行こうということになり、カミさんと二人で、少しお金を奮発して敷地内のホテルに1泊した。夏の時期だったので、やれることは限られている。せっかくだからプールに行こうということになり、バブルの象徴のようなドでかいプールとご対面。日本最大級30m×80mの波の出るプールで、奥に行くほど深くなっていく(今は「ミナミプール」というらしい)。

 

   私と妻はプールでひと泳ぎ。プールの利用料金は、ホテルの宿泊代金とパックになっていたので、お得な価格でプールが利用できることに大満足であった。ここにはプールサイドでひと休みできる喫茶コーナーもあり、充実している。私は妻とプラプラとプールサイドを歩いていると、奥まった離れに休憩スペースらしきものがあった。ガラス張りのその施設に思わず足を踏み込むと、受付に女性がいた。

    私は、「ここは入ってもいいのですか」と聞くと、その女性は、「ここはラウンジで有料となります」

私「へーおいくらですか」 女性「ご利用料金はお一人様5000円です」。

私は速攻「お邪魔しました」と言い、顔を引きつらせながらそそくさとその場を後にした。

 

    プールサイドにあるラウンジが5000円て、どんなもんやと納得がいかなかったが、あとでパンフレットをしげしげと見ると、プールの利用案内に確かに「プールサイドラウンジ」とあって、フリードリンクや雑誌類が置いてあり、プールで泳いだあとのくつろぎのスペースとしてご利用くださいとあった。いわばセレブ用の休憩スペース。利用料金もしっかり5000円と書いてある。それにしても5000円は高い。しかしそうした価格設定でも利用者はいるだろうという施設側の強気の姿勢だったのだが、バブルの頃はこうしたことが平気で行われていた。金銭感覚が麻痺していた、今思うと何とアホな時代だったかと思う。

 

   その話にはおまけがある。数年後運営会社はバブル崩壊とともに経営から手を引き、別の事業者が引き継いだ。プールの入場料金も大幅に下げ、多くの宿泊客が利用できるように、リニューアルした。十数年ぶりに、今度は子供たちを連れて再びトマムのプールに行った。私は何の気なしに例の休憩スペースに行ってみた。そこには前にあった、飲み物類や雑誌類などは一切なく、人は誰もおらず単なる休憩スペースとして無料開放されていた。

 

   それを見た瞬間、バブルの爪痕ではないが、高級志向を追求していたあの頃の欲望の愚かさに改めてため息をついた。そして施設やサービスの豪華さではなく、お金がなくても自分らしく生きることは何なのか、20年経って回答が導きださせたような気がする。「5000円でも利用者がいるはず。それは成金の人たちが必ず利用するから」というバブル時代の価値観から、「お金が無くても工夫をして楽しく暮らせる」とう価値観に間違いなくシフトしていると感じさせた、トマムのプールの一件であった。

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対向車線をはみ出してはいけない