笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字704は「漂」。江戸時代の漂流は悲惨だった

今日の漢字は「漂」。漂流、漂着。

 

   吉村昭の「漂流」を読んだ。江戸時代、米を運ぶ帆船が暴風雨で流され、船は舵や積み荷、帆柱を切り捨てて坊主船となって漂流し、偶然にも八丈島の南、鳥島に漂流する。そこは無人の火山島。湧き出る水も木の実もなく、いるのは野生のアホウドリのみ。これらのアホウドリをひたすら食べ、洞窟の中で生活し、そのうち流れ着いた他の漂流難民と力を合わせて流木で船を建造し、八丈島まで何とかこいで生き延びるという物語。壮大なサバイバルが展開され、生きることの力強さと諦めない気持ちがひしひしと伝わってくる良書である。

 

   何といっても凄いのは、土佐出身の長平という船乗りが何と12年間もその島で生き延びたこと。しかも一緒に流れ着いた同僚3人は病気で次々に死に絶え、その後ひとりに。1年半を1人で暮らし、そのあと偶然にも大坂船の漂流者11人が加わり。さらにその後薩摩からの漂流船が流れ着いた。その間、彼らはひたすらアホウドリの肉を食べる。しかもアホウドリは春先には渡り鳥として北方に旅立つため、アホウドリがいなくなれば、食物となる生物がいなくなる。そのため冬の最中に鳥を殺し、干し肉にして備蓄する。時には磯で貝や魚を獲る。それを10年以上やってのけるのであるから、尋常とは思えない精神力である。土佐、大坂の船は嵐で木端微塵にくだけ散ったが、幸い薩摩船は鍋窯や火打ち道具、大工道具などを積んで島に上陸できたため、最終的に流木を集め小さな船を作り、島を脱出することができたが、それができなければ座して死を待つしかない状況であったであろう。

 

   江戸時代は鎖国をしていたから、大きな帆船を建造して諸外国に行くとうことはなく、もっぱら帆柱が1本の小さな帆船であった。元々が米や物資の運搬のための船であり、日本の沿岸をちまちまと廻船していたにすぎない。しかし海が大荒れとなると途端に船は走行性能を失い、大海原に投げ出される。特に太平洋は黒潮という厄介な海流があり、それに乗るとあっという間にロシアに流される。島にたどり着けるのはまだいい方で、ほとんどの船は嵐で破壊され、乗組員は海中に投げ出され帰らぬ人となる。島にたどり着いたところで、その付近を航行する船はないから発見もされない。孤島で朽ち果てるだけである。ロシアのカムチャツカに辿り着き、その後ロシア皇帝と謁見し最終的に帰国する大黒屋光太夫の例は極めてまれなのである。江戸時代にどれくらいの漂流船があったのかはよくわからないが、江戸時代版ロビンソンクルーソーの様子がさまざまな資料を元に現代に残されている意味は大きい。漂流して無人島での暮らしを余儀なくされても命を大事にしてサバイバルに徹し、生きて何としても故国に帰るという「執念」は、今の時代では考えられならないくらい重みを持つと思う。

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