今日の漢字693は「殺」。殺し文句には注意せよ
今日の漢字は「殺」。殺人、殺害、殺傷、殺伐、殺風景。
「ザ・殺し文句」（上川徹也）から。
日ハムの栗山監督が、ドラフトで交渉権を得た大谷翔平に向けた殺し文句の言葉。
「誰も歩いたことのない道を歩いてほしい」。
アメリカのメジャーリーグに二刀流で挑戦しようとする大谷に対し、日本のプロ野球でそれを実現させようと、この殺し文句で入団を決意させた。
殺し文句には法則があるという。
- あなただけを強調する。
- 相手の利益を語る
- 二者択一で問いかける
- リスクを負って断言する
- プライドをくすぐる
- 下手にでる
- 巧みな比喩で語る
- 大義を訴える
- 相手の発言に乗っかかり切り返す
- 本気でぶつかる
特にこの中で殺し文句の切り札は、「プライドをくすぐる」こと。
人はプライドをくすぐられると、自己重要感が満たされる。その結果、その人に好意をもち、言うことを聞こうと思ってしまう。特に相手が自分よりも役職や社会的地位が高い場合に効果がある。言われた方はより自己重要感が満たされる。
さらに「あなただけ」。
あなただけを強調されると、人は心を動かされる。「あなただけにお話しします」「お前しか頼るやつはいない」「君だからお願いするのだ」
しかも二人称の代名詞ではなく、具体的な名前が入ると、より効果があがる。
しかし、この殺し文句には注意が必要。特に詐欺師はこの「あなただけに」を効果的に多用する。「とっておきの投資先をあなたにだけお教えします」「〇〇さんは信用できるので、こっそり教えます」などのフレーズ。
自分は特別だという錯覚を引き起こし、殺し文句に殺されてしまう。そうならないためには、殺し文句に対するリテラシーを持つことも重要である。
そんな法則の中で過去発言のあった殺し文句。
「思い切って僕の胸に飛び込んでほしい」
「リリーフで俺と一緒に革命を起こしてみないか」
「僕もやったことがない。あなたもやったことがないからこそ、一緒にやりませんか」
いろいろとあるものである。
さて、身近な殺し文句の例を。
私の会社にいた課長は、子会社に出向となった。本人は不満たらたらで、異動をしぶっていた。それを危惧した部長は課長を説得。言った言葉が「出向する会社は今ひどい経営状態だ。だから君が乗り込んで、何とか経営を立て直してほしい」。この殺し文句に心を打たれた課長は、異動をしぶしぶ飲み、子会社に出向となった。
しかし話はこれで終わらず。出向会社で権力闘争に巻き込まれてしまった課長は、本社に戻るタイミングを失った。そうこうするうちに説得した部長は別の部署へ飛ばされ、結局その課長は、本社に戻ることなく、出向先で定年退職となってしまった。殺し文句で納得して出向したものの、殺し文句を言った上司が失脚し、自分の命運も尽きるという悲劇的結末。この例で見ると、その殺し文句はその場では効果抜群だが、果たしてそのあとの人生にとっていいかどうかは、長い目で見ないとわからないということなのだ。
