笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字637年は「壁」。ベルリンの壁を思い出す

 今日の漢字は「壁」。外壁、城壁、防火壁、絶壁。

 

    壁で真っ先に思い出すのは、ベルリンの壁。1992年、私は観光でベルリンに行った。観光目的はただひとつ、ベルリンの壁ブランデンブルク門を見たかったから。東西ドイツの統一の象徴、ブランデンブルク門は歴史のワンシーンを飾った構造物であり、しっかりと目に焼き付けておきたかったのである。

 

    前年にようやくドイツが統一されており、翌年もまだ混乱を引きずっていた感はある。何と言っても旧西ドイツ国内から旧東ドイツ国内を通って電車でベルリンに行くのがものすごく遠かった。

    景色も旧東ドイツ国内は農地ばかりで都市がない。しかも農地で畑を耕す農夫はなんと牛で土を耕していた。1990年代なのに、まだ動物に頼るという前近代的な農耕手法に唖然とした。それくらい共産主義の国は貧しかったのだと嘆いたのである。

 

   ベルリンはさすがに都会であった。東西ベルリンを隔てる壁はすでに撤去されていて壁は実感できなかったが、往来は自由。

  ブランデンブルク門に早速見学に行ったが、パリの凱旋門、イギリスのビックベン、アメリカの自由の女神のように、シンボルタワーであり、「はるばる来たぜベルリン」の感慨にふけった。

 

    ふと門の近くを見ると、何人もの若い青年たちが露店を開いている。よく目を凝らすと、ベルリンの壁のコンクリート破片が、げんこつくらいの大きさで透明なビニール袋に入って売られていた。確か300円くらいだったと思う。破片はそのままでは無味乾燥なコンクリート破片にすぎないから、なにかしらの絵や模様が描かれていた。おそらく青年たちは、何キロにもわたって築かれていたベルリンの壁を取り壊す現場に行き、破片のコンクリートを盗んできたのであろう。そんな輩が何人もにわか露店を出していたから、結構買っていく観光客がいるのだろう。

 

    しかし私は考えた。「あのコンクリート破片は本当にベルリンの壁か」。ひょっとしたらどこか別の廃墟に行ってつるはしでがしがし削った破片を売っているだけではなかろうか。

    私は疑い深いので、壁の破片を買うのはバカらしくてやめた。甲子園の土じゃあるまいし、日本に持って帰ったとしても邪魔なだけだし、居間に飾るオブジェとしては今いち。まったく購買意欲をかきたてなかった。

 

   それよりも印象的だったのは、東西ベルリンを行き来する検問所跡地。チェックポイント・チャーリーというその検問所のそばに、その名も「壁博物館」があり、歴史展示をしていた。興味深かったのは、東の住民が西に亡命するためにとった作戦の数々がイラストや写真で展示されていた。圧政や生活に苦しむ東ドイツの人たちは、国力を復興させ、自由と民主主義を謳歌する西ドイツがパラダイスに映ったにちがいない。壁の地下を穴を掘って進む人、大きな竹の棒で棒高跳びのように壁を越える人、気球で渡ろうとした人などが紹介されていた。しかし東ドイツの警察に見つかれば即射殺の憂き目に。亡命もまさに命がけだったのである。

 

   東西ドイツは無事合併をソフトランディングし、経済格差も是正し、今やEUの盟主。リーディングカントリーである。東西ドイツの統一の成功例を見るにつけ、次はどうしても朝鮮半島の統一を夢想してしまうが、まずありえないであろう。両国を隔てる壁はないが、目に見えないバカ高い政治の壁が屹立しており、地球が逆立ちしてもあり得ないことだとため息をつくのであった。

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東尋坊の絶壁に立ちたい