今日の漢字633は「測」。測量のアルバイトは黒歴史
今日の漢字は「測」。測定、計測、憶測、予測、不測の事態。
大学生の頃、アルバイトで測量補助をしたことがある。
よくドライブなどをしていると、三脚を立てて計測器を覗き込む人と、100メートル先に棒のようなものを持って立っている人をみかける。これは高低差か何かを計測しているもので、内容はよくわからないが、その測量用の目盛りが入った棒を持つ役目を私が担ったのである。
測量会社の30代の男性と2人で向かった先は、大阪南港のマンション群が林立する場所。私には測量の仕事の詳しい内容は一切明かされず、ただ、測量の棒を渡されて、指定された場所に立つのみ。極めて楽な仕事であった。
ただ、なぜか道路上に棒を立てるだけではなく、下水管の入った場所のマンホールを開け、2mくらい地下まで棒を差し込み、その目盛りを遠くから計測するという奇妙なこともやらされた。なぜ下水管の高さを測量をするのか、さっぱりわからなかったが、私は短期のアルバイトの身であり、あまり細かいことを聞くのも憚られたので、男性の言われるままに棒を盛って突っ立っていた。
下水管のマンホールを開ける際は、蓋が重いので、2人で工具をもって開けていた。開けたのち、私は測量の棒を立てるため、中を覗いた。2メートルくらい下には、下水の通路が横切っており、そこを汚水がちょろちょろと流れている。下水などは滅多に見ることがないから興味津々に覗き込むと、時たま白い塊が流れていく。
私が測量会社の人に「何ですかねー」と聞くと、「うんこに決まっているやろ」。
そうなのだ、下水だから糞尿が流れているのは当然。しかしなぜか白っぽい。薬品か何かが入っているのだろうか。「なぜ白いんですかねー」とはさすがに聞けなかった。ティッシュと一緒に絡まっているのかもしれない。
マンション群に住む住民の糞尿は、こうして下水を通ってどこかの処理場に向かっているのだと勉強になった。
何箇所かの下水管のマンホールを開け、順調に測量を進めた。そして何箇所目かのマンホールに差し掛かり、いつものように2人で工具を使って、蓋を開けた瞬間、私が誤って工具を下水管の中にと落としてしまった。「カラーン、ぽちゃ」と音を立てて工具は下水の中に転がった。
あちゃーと思い、工具の行方を見たあと、顔を上げた瞬間、測量会社の男性と目が合った。
「おまえが取りに行くんだよな」。当然という顔でその男性は言い放った。
あーあ。しょうがない。下水から頭の出た工具の影ははっきり見えるが、その近辺を汚泥がながれている。自分のミスである以上、私は仕方なく、梯子を降りて、工具を取りに行った。
中は臭いのかと思ったが、それほど臭くはしない。しかし白い塊が次々と流れてくる。
「うんこと思わず、石ころと思え」そう念じて目を逸らしながら工具だけに一点集中。汚泥の中に沈む工具を取り上げ、淡々と梯子を登った。工具にうんこが付いているかどうかは確認する暇なく、梯子を登るのに必死であった。
「臭かったか?」男は気遣って私に声をかけた。年上だが、意外といやつだ。
「大丈夫です」といって、少し汚くなった工具を近くの雑草で拭いた。
下水管を見たのは、30年以上前のこのバイトの経験時のみ。糞尿もそれほどリアルでなかったが、二度と降りていきたくない黒歴史として、今でも脳裏に焼きついている。