笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字は573は「路」。釧路市は今、揺れている

今日の漢字は「路」。道路、遠路、路線、悪路、滑走路、路傍の石

 

   道東の釧路市が揺れている。

 

    発端は地元の有力企業であり、大企業の日本製紙釧路市の工場を閉鎖、撤退すると発表したからである。理由はコロナ禍で新聞、チラシなどの印刷部数の大幅減で紙の需要が大きく落ち込んだことが原因である。

 

    釧路市は過去は遠洋漁業の基地として賑わったほか、太平洋近海の海底に石炭が眠り、太平洋炭鉱という石炭会社が石炭を採掘していた。さらに製紙会社があったため、道東の基幹都市として隆盛を誇ってきた。最盛期には、道内4番目の人口21万人を擁した。

   しかし、遠洋漁業、石炭産業の衰退と続き、街の活気も次第に失われていく。今や人口は16万人にまで減っている。

 

    そんな釧路市に私が勤務したのは、昭和の後期。当時は漁業も景気が良く、飲み屋街も活気があった。遠洋漁業から戻ってきた羽振りの良い漁師が、札束を携えて街を闊歩していると噂された。

 

    そして当時の釧路の繁栄を象徴したのが、アイスホッケー。釧路は氷都と言われるくらい、ウインタースポーツ、しかもスケートが盛ん。スピードスケートでは多くのオリンピック選手を輩出している。そんななか、当時は日本アイスホッケーリーグに地元企業の十条製紙が参戦し、リーグを盛り上げていた。

 

    当時の日本アイスホッケーリーグには、王子製紙雪印、国土計画、西武鉄道、十条製紙、古川電工と6チームがあり、強豪の王子、西武、国土が常に優勝を争う一方、十条製紙は弱小チームで、古川電工とともに2弱を形成。優勝にはほど遠い存在であった。しかし企業スポーツとはいえ、自分の街の「おらがチーム」があることは、釧路人の誇りでもあり、自慢のひとつでもあった。

 

    釧路に住んでいる間、一度だけ会社の先輩に誘われてアイスホッケーを見に行った。場所は郊外にある春採アイスアリーナ。対戦相手は宿敵の古川電工。一緒に観戦した先輩は、「他のどのチームに負けてもいいが、古川にだけは負けられない」と息巻いていた。

 

    アイスアリーナに行くことは初めての経験。会場はとても寒い。それはそうだ。氷が溶けてしまっては試合ができないから、会場は氷点下の室温設定。だから1クォーター20分の試合を見終わると、ほとんどの人はロビーに出て暖を取る休憩が必要であった。とにかく寒いというのが第一印象であったが、試合は白熱。氷上の格闘技と言われるアイスホッケーは選手の当たりが強く、ガツガツしていて迫力満点。しかし残念ながら、肝心の黒いパックが小さすぎて良く見えない。選手の体格の割にパックが小さいので、どこにパックがあるか判然としないのが難点で、いつのまにかゴールにパックが吸い込まれているというのが何回かあった。

 

    十条製紙は古川電工相手に果敢に攻め、古川から勝利を収めた。

 

   先輩は上機嫌ながら、依然として5位のままの十条製紙に「やっぱり上位に勝たないとな」と呟いた。

 

    時は流れ、企業の十条製紙は日本製紙と合併し、チーム名も日本製紙クレインズに(クレインは鶴)。日本製紙時代は何度かリーグ優勝(アジアアイスホッケーリーグ含む)するなど、それなりの強豪となった。

 

    さらに時は流れ、日本製紙は経営状態の厳しさから、チームを抱え続けることも難しくなり、廃部することに。市民は復活を願い、多くの人が支える市民チームとして2019年に、「ひがし北海道クレインズ」が再スタートした。何とか氷都のスポーツ文化を死守しているところである。

 

    そうした中、肝心の日本製紙の撤退は、アイスホッケーの廃部以上の痛手がある。従業員の解雇だけでなく、家族の生活、取引企業や飲食店への影響など地元経済に与えるダメージは計り知れない。漁業と石炭産業の衰退以降は、企業城下町として日本製紙とともに生き残りをかけてきた釧路市は、今後どうなってしまうのか、心配のひとつである。

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