今日の漢字520は「慰」。慰安旅行で混浴に入れた時代があった
今日の漢字は「慰」。慰安旅行と慰謝料しか思い浮かばない。
すっかりみかけなくなった温泉の混浴。
昭和の時代の温泉旅館では、混浴を売りにしていた宿が結構あった。
今ならセクハラだコンプライアンスだ性犯罪につながるなど、非難轟々間違いなしだが、昭和の頃はヌードでさえも深夜の地上波のテレビ番組で流れていた時代。
温泉の混浴風呂と聞いて、男性が殺到するのは間違いないから、各宿とも集客目的で混浴を売りにしていた。
混浴の初体験は、昔懐かし会社の慰安旅行でのこと。
これまた今や絶滅したイベントの慰安旅行だが、昭和の時代は会社に忠誠を誓う必須事項として、社員の一体感の醸成を大義名分に強制参加させられていた。
入社数年の私も下っ端である以上、休日にもかかわらずしぶしぶの参加となったが、唯一光明が。何と宿泊する温泉宿に混浴があるではないか。
当時はインターネットなどないから、幹事がどこから仕入れてきたのか、その温泉宿では夜の10時から混浴タイムがあるとのこと。若手男性陣は俄然盛り上がった。
そんなこんなで、慰安旅行当日の夕方、北海道のA温泉街のTホテルに到着。
到着後すぐに温泉に入り(この時点ではまだ混浴ではない)適当に夕食を食べ、お酒で盛り上がり2時間くらいでお開き。年配のおっさん方は混浴などに興味はなく、そそくさとマージャン部屋へとしけこむ。
会社の女性陣と混浴で会うとばつが悪いので、軽く混浴の話題を振ってみたところ、「そんなの恥ずかしいから行くわけはないわよ」と蔑む目で見られる始末。
そりゃそうだ。しかし今日は土曜日でかなりの宿泊客がいる。混浴への期待は高まる。
部屋で二次会と称して飲みなおすという幹事の言葉を無視し、混浴タイムが始まる22時まで、自分の部屋で同僚2人と静かに指を加えて待つ。
そして22時となり、つとめて冷静に男子3人で混浴風呂に直行した。
どんな世界が待ち受けるのか、どきどき。皆無言になる。
そしてワクワクしながら大浴場への扉を開けると・・
「ん!」
そこにいるのは野郎ばかり。湯気に曇る浴槽や洗い場を見るが、湯船に浸かっているのは男しかいない。まるで餌をねだる猿のイモ洗い状態であった。皆考えることは同じなのねーと妙に可笑しくなった。
同僚も目が点になりつつ、「女がいない」とは口が裂けても言えないので、「とりあえず浴槽に入りますか」とかなりがっかりした様子。
熱い温泉の浴槽でひたすら無言で待つ男たち。だれも風呂から上がろうとしない。
持久戦かと思われた数分後、女性の脱衣所から黄色い声が。
「キター」と一瞬ほくそ笑む。男たちはそわそわし始める。湯船の波が揺れる。
ガラガラッ と扉開く
「ん?」
「あらまー男ばっかだわ。」
湯煙の向こうに浮かぶシルエットは、人魚のような素肌の女の子ではなく、しわ枯れて年季の入ったおばさん達数人。
全く臆することなく、男性陣の陣取る湯船にどかどかと入り込んできた。
「ごめんねーおばさんで。ちょっと失礼するわ。そんなじろじろ見なくていいのよ。」
ガクリ。アゴが外れた。絶望感で一杯。一気に頭がのぼせた。
ずっと浴槽につかっていた同僚は、大きくため息をついたのち「どうします?出ますか」
私はおばさん達が談笑する姿を横目で見つつ、これ以上粘るのがアホらしくなり、「出るべ」と言って大浴場を跡にした。
野獣が可愛い小鹿ちゃんを待つ混浴作戦は全くの空振りに終わり、よこしまな気分で温泉に来たことを悔いていた。しかしまあよくあれだけ男が集まるものだと感心する一方、さすがに若い女性は警戒するわなと、当然のごとくの道徳的対応に逆に1本とられた気分であった。
実はこの話には続きがあり、我々3人のうち、もう1人は粘って30分以上いたら、若い女性グループが入ってきてさぞかし盛り上がったらしい。湯船に浸かる女性の周りを多くの男たちが遠巻きに囲んでいて、「ちょっとだけ目の保養になりました」と嬉しそうに語った。
それを聞いてちょっぴり残念だった。