今日の漢字518は「赤」。赤の他人には声をかけずらい
今日の漢字は「赤」。赤ん坊、赤裸々、赤貧、赤井英和、赤い彗星のシャア。
赤の他人にどう呼びかけるかというのは、実は難問である。
というのも、先日、横断歩道を渡っている最中、前を行くおばさんが、ハンカチを落とした。拾い上げて渡そうと、背中ごしに声をかけたが「あのー、すいません」。本人が気づくように少し大きめに声を上げたが、振り向いたのを見て、「これ、落ちていましたよ」とハンカチを渡して事なきを得た。
今、あらためて考え直すと、赤の他人に「あのー、すいません」じゃ声かけにならない。
しかし「おばさん」は失礼だし、「お姉さん」では若すぎる。ましてや「ご婦人さん」は昭和トーンでもっと変。
若い女性ならば「お嬢さん」や「お姉さん」、おばあさんなら「おばあちゃん」という的確な用語があるが、中年女性に声のかけやすい適切な言葉が無いことに気づいた。
結局、謝る立場でもないのに、「すいません」と無難な表現を使っていることに対し、何とも情けない気分に陥った。
その点、英語は楽である。すべてYOUで済む。「HEY! YOU」と後ろから声をかければ、1000%伝わる。英語のいいところは、大統領だろうが、ヤンキーのお兄さんだろうが、幼児だろうか、すべてYOUで通じるところがいい。
私が大学生の頃にショックを受けたのは、居酒屋でバイトしていた際、客の中年のオヤジから、「ぼく、ビール持ってきて」と言われたこと。
「ぼく? 誰? 俺?小学生か?」と突っ込みを入れたくなった。そこは「お兄さんでしょう」と訂正しようにも、酔った客につっかかっても意味がない。ただただ苦笑するしかなかったが、バカにされたようで腹立たしかった。
その教訓があるから、私は、小学生以下はボク、中・高校生はお兄ちゃん、大学生以上はお兄さんを使うよう、心がけている。
このように日本には、多種多様な呼び方があることについて、国学者の金田一秀穂氏は、日本人は立ち位置や役割を気にするという点と、単に名前を覚えるのは大変だからという点をあげる。
日本人には相手の社会的立場や肩書き的役割が重要だから、呼び方でその人の社会的立場を判断する。
社会的地位が高い議員、教師、作家、医者などは「先生」と実に使いやすい便利な言葉がある。また、サラリーマン社会では、役職で呼ぶのはその最たる例。「専務、部長、次長、課長、代理、主任」。目下に対しては、さんや君。女性に○○ちゃんと、ちゃんづけする人もいる。学校では「先輩」。後輩には「おまえ」と呼ぶ。
会社で社長に向かって「○○さんは・・」、などと言おうものなら、「あいつは礼儀がなっとらん」と降格の憂き目を見るのは明らか。そういう意味で少し飛躍するが、定年後に役職も何もなくなった元部長が、「○○さん」としか呼ばれないことにショックを受けたと何かの本で読んだが、役職名で呼び合うのは、ガラパゴス化した日本の歪んだ風習ではないかと思う。
その反面、敢えて名前を呼び合わないという風習もあり、これはこれで便利。たまにばったり会った人の名前が全然思い出せなくても、何とか穏便にやり過ごす術を身につけている。外国人がよく名前を呼び合うシーンが出てくるが、「ええ~っと(誰だっけ)」「キャサリンよ」などと会話するが、日本の場合、名前がわからず曖昧に過ごしても正直に「ええ~っと」と言わなくても何とかなる。
どちらがいいかはわからないが、少なくとも、いつでもどこでも「すいません」で呼びかけるのでは、寂しい会話にしかならないことだけは間違いないと思う。