笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字477は「暑」。暑気払いの雄、ビアガーデンでの思い出がよみがえる

今日の漢字は「暑」。猛暑、残暑、酷暑、避暑、処暑、暑中見舞暑。

 

    今週のお題「暑すぎる」を癒す行為いといえば暑気払い。

   

     暑気払いといえばビアガーデン。

 

    今年は残念ながら中止となったが、札幌では毎年、市内中心部の大通公園が巨大ビアガーデンと化し、大勢の市民や観光客で賑わう夏の風物詩となる。

 

    4大ビールメーカーがそれぞれ広い公園敷地のワンブロックを占拠し、各社自慢の生ビールを提供してしのぎを削る。

   

     暑気払いを兼ねて外で飲むビールは気持ちいいが、北海道は日によっては涼しいどころか肌寒い日もあり、そんな日にビアガーデンでビールを飲み過ぎると途端にトイレが近くなって困る。

 

     そんな暑さをしのぐ雰囲気を味わう最大の雄、ビアガーデンで思い出すのは、およそ40年前、大学1年のときに京都で初めて経験したビアガーデンのアルバイト。当時北海道から京都の大学に入学した私は、夏休み期間中、地獄のように「暑すぎる」と言われていた真夏の京都で過ごす自信がなく、そそくさと避暑で北海道の実家に帰ろうと画策。しかし飛行機代は伊丹―新千歳間が当時4万円くらいした。それを捻出するためにはアルバイトしかないと、ビアガーデンが営業を始める6月から8月上旬までの約1ヶ月半、アルバイトをすることとした。

 

    19歳で生まれて初めてのアルバイトは緊張の連続であったが、大勢の大学生アルバイト仲間に囲まれていたことや、ビアガーデンの店長が優しい人柄だったので、毎日楽しく仕事ができた。営業終了後は余ったおつまみを自由に食べることもでき、食費が浮くという効用もあった。

 

    ひとつ記憶に残るエピソードは、ビールジョッキにまつわる思い出。ビアガーデンはお客さんで混んでくると、ビールジョッキを運ぶのに忙しくなる。特に何十人もの団体が入ると、一挙に注文がくるから、慌しい。

 

    それを少しでも効率良くさばこうと、その優しい店長は自らがビールジョッキをいっぺんに最大11個持つことを自慢しており、その日もせかせかと11個持ちを実践していた。

 

    ビールジョッキを11個持つということは、通常両方の手でビールジョッキの持ち手を5個ずつ計10個わしづかみのように握って持つのだが、その店長は両方の手で持った5個ずつのジョッキを、両ひじを真横に突き出し、胸のあたりでガシリと付き合わせ、さらに両方のジョッキが接した隙間にできた空間にもう1個のビールジョッキを下に落ちないように挟んで持っていくというもの。11個目のジョッキはどの手でも支えられないため、極めて不安定。だから両手で中心部に圧力をかけ続けなければならない。

 

    そんな危険な状態を楽しむかのように、お客さんへのパフォーマンスもかねて無茶な運び方をしていた。

 

    我々も日ごろから「店長、その持ち方大丈夫ですか」と聞いても、店長は「かまへん。忙しいときは効率的に運ばんと。失敗せーへんし慣れたもんや」と馬耳東風。余程自信があるのだろう。

 

 

    しかしそんな不安が的中するときがきた。ある夜、店長がいつものようにお客さんのテーブルにガシャリと11個のビールジョッキを置こうとした瞬間、何かの拍子でするりと11個目のジョッキが抜け落ち、大惨事。座っているお客さんのズボンにビールがどぼどぼとかかり大激怒。我々はただでさえ忙しいのに、お客さんにおしぼりを持っていったり、周りをふいたり片付けたり、余計な仕事をさせられた。

 

    店長はそれを機に11個持ちをぴたりと辞めた。たぶん店長の上司から焼きを入れられたのだろう。残念ながら彼のパフォーマンスはそれが最後となった。

 

    この教訓は、慣れているからといって慢心しないこと。そもそも危険な持ち方なのに、経験を積んで慣れているからといって続けると痛い目に合うという典型例。誰も怪我しなかったことだけが幸いであった。

 

   40年近く前のビアガーデンでの、暑い夏の夜の出来事だった。

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暑さ寒さも彼岸まで