笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字457は「舎」。田舎への移住について考える

今日の漢字は「舎」。校舎、駅舎、宿舎、牛舎、舎弟。

 

    定年後に田舎に移住するという考えがある。

    喧騒の都会を離れ、空気や水がおいしく、自然が豊かで人間らしい生き方ができるとして、地方の田舎に移住する都会人が一定数いる。

 

    北海道では若者の流出と過疎化に悩む自治体が、定年退職者の移住を後押ししようと、さまざまな企画を練って都会の中高年にPRしている。

 

    土地代や住居費等物価の安さ、海や山の自然の豊富さ、食べ物のおいしさ、地元の受け入れ体制と人の温かみ、自治体の協力体制など、あの手この手で移住を促そうと、町内の施設に体験宿泊してもらったり、逆に都会で「田舎暮らしフェア」を開催するなどして、各自治体が「わが町に住むといい人生が過ごせますよ」をPR。北海道ローカルのラジオ番組「ちょっと暮らし北海道」なる番組もあり、そんな前のめりな自治体の取り組みを紹介している。

 

    こうした田舎への移住について、北海道に住む人間としてお勧めかと言われると「NO」である。

    もし自然大好き、家庭菜園大好き、釣り好きアウトドアサイコーのご主人がいたとして、奥さんがそういう生活に耐えられるかという問題がある。映画やショッピング、グルメ、仲の良いマダムのコミュニティなど、都会生活を満喫した世界とは真逆の田舎生活。はっきり言って何もない。人と会うことだって田舎のサークルなどたかが知れている。

 

  しかも移動は常に車。車が運転できないと、買い物もままならない。一体何歳まで車を運転できるというのか。しかも大きな病院に入院となれば、主要都市まで長時間移動しなければならない。夏ならまだしも、奥さんが旦那の入院する病院に通うのに、冬の移動は無理。

   冬は雪に閉ざされ、吹雪になれば外出さえできない場合もある。

 

    大体自治体主催の宿泊体験会は夏の爽やかな時期が多い。「この爽やかな気候と大自然の中で第二の人生を」とのうたい文句で自治体はPRし、参加した熟年夫婦も「この気候と大自然の北海道でのんびり暮らしたい」と移住にグッと前向きになるのだが、それは夏だから良く見えるだけの「あばたもえくぼ」。

    冬は雪に閉ざされ、寒くて何もない殺伐とした風景を見て初めて騙される。しかも家の前には雪が積もるから、雪かきという重労働が待っている。

 

    さらに、子供や孫たちはそんな田舎にわざわざ帰省したくないし、どちらか一方が亡くなれば、途端に身寄りをどうするかという問題に突き当たる。面倒くさい問題となるのは必至。都会に住む息子夫婦が北海道の片田舎に暮らす母親とどう行き来するのか。息子は、「また都会に住めば」と言うに違いない。

 

    大阪から北海道の道南のとある片田舎の町に移住した夫婦がいたそうだが、ご主人が病気になり、函館の病院に入院することとなった。関西に住む子供たちは見舞いやら何やらで大変だったという話を聞いたことがある。

 

    どうもあこがれの移住生活というイメージ先行の幻想に惑わされ、将来はのんびり田舎暮らしをして、人間らしく晴耕雨読などと言っていると、あっという間に認知症へまっしぐら。しかも移住した先の自治体は、さらなる人口減少によって行政サービスもままならない可能性もある。

 

    一番怖いのは、「その街に飽きること」。やることがなくてつまらなくなり、その街にもう住みたくなくなることが最も怖い。移住した街での人間関係もどうなるか、だれも予測できない。地域に馴染めずに孤立する可能性もある。

 

     人は必ず弱るし、老いて誰かの助けを借りなければならない。未来永劫誰にも迷惑をかけずにぴんぴんしてアウトドアライフの満喫などできやしない。そ将来の病気に関わるコスト、肉親や家族の移動問題やその負担、伴侶を亡くしたあとの単身生活、自分が死んだあとの始末などをよくよく考えると、そう簡単に田舎に住むべきではないというのが私の意見である。

 

  そんなに田舎暮らしがしたいのなら、車でせいぜい2、3時間で行ける所に畑を借りたり、気ままにキャンプをしたり、わざわざ移住しなくても楽しめることはいくらでもある。日頃の都会の生活は刺激もそれなりにあるし、都会の便利さは歳をとってから気づくのではないかと思うわけである。

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