笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字367

今日の漢字は「仲」。仲間、不仲、仲介、仲裁、伯仲、仲間由紀恵

   仲間と群れを成して生活する野生動物のひとつに狼がいる。

    旭山動物園を訪れた時のこと。

   私は狼館の前にいた。定刻を知らせるのチャイムが鳴ると、数匹いる狼たちが一斉に咆哮を始めた。そこにいた狼館の解説員は、「チャイムを聞いた狼は、遠くに他の狼の群れが鳴いていると勘違いし、ここにも俺たちはいるのだという縄張りを主張をするために、仲間の狼と鳴いて存在を示しているのです」と語った。


   「狼と暮らした男」というアメリカ人の書いたドキュメンタリーの本をよんだ。著書が単身でロッキーの山奥に住む狼の群れの中に入り込み、狼の生態や群れで生活する彼らの行動を調べるべく、自らが狼になりきり、一緒に生活する姿が描かれている。


   最初は人間という異端児を見るお客様扱いだった狼たちも、男が狼たちと一緒に獲物の生肉を食べたり、狼のリーダーのメスが産んだ子狼の子守りを自ら買って出たりするなど、集団に馴染もうと行動をし、邪魔者にされることもなく、次第に仲間の狼たちから信頼を得ていった。


    象徴的なシーンがある。
    男と若い狼が、リーダー狼の幼い子狼の見守りをしていた時のこと。
   他の狼たちは団体で狩に行っており不在。他の野生動物に襲われないよう、子守りを託された男は、目を凝らして周辺の警備をしていたが、水を飲もうと沢に降りた時、一緒に守っていた若い狼が後を追ってきて、後ろから彼に飛びかかり、男を倒して上から覆い被った。
   男は狼の突然の襲来に驚き、「ついに俺も殺される時が来たか」と恐怖に怯えつつも、もがいて狼の圧力から逃れようとする。しかし狼は男に噛みつくわけでも殺す訳でもななく、じっと息を凝らして男の上から覆い被さったまま動かず、あたりの気配を注視している。
    男は狼に上から覆いかぶさられたまま暫くの間、じっとしている他はなかった。


    小一時間ほど息を潜め、ようやく狼は何事もなかったように男から離れた。男は狼の行動の意味を全く理解できず、さりとて噛まれたり、傷つけられたりする訳でもなく、不思議な気持ちで沢に降りて水を飲んだ。
   その時、ふと足元を見ると、巨大な熊、クリズリーの足跡を発見。そこで彼は悟る。ほんの1時間前、俺がそのまま沢に降りて行けば、クリズリーに遭遇し、当然の如く殺されるとともに、そのあと狼の巢にやって来て、巣を蹂躙したであろう。子守りしていた若い狼、さらにはリーダーの子狼も殺されたに違いない。若い狼は、その危機を事前に察知し、男が危険な状態に陥ることを阻止したのである。


    このシーンを読むにつけ、狼の賢さを垣間見るとともに、狼が仲間として行動し、群れを守るという使命感や責任感が備わった社会的動物であることがわかった。彼らの行動は一種任侠の世界を想起してしまうが、仲間を大切にしようという気持ちは人間以上かもしれない。野生動物たちも日々弱肉強食の世界の中で必死に生きているのだというその姿に感動したのであった。

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仲村トオルはツッパリのイメージがあるが、いい役者だ