今日の漢字362
今日の漢字は「服」。制服、服装、感服、一服、服用、紳士服、礼服、着服、衣服、服従、服務、克服、服部半蔵。
服の熟語も多い。服で思い出すのは、私服警官。
なかなか普段私服警官にお目にかかることはない。
余程の犯罪に巻き込まれたり、空き巣だ泥棒だなどの軽犯罪の被害に遭っていないだけなのか、加害にしても被害にしても、私服警官と面会することが無いことは幸運であると思う。
そんな滅多に出会わないシーラカンスの私服警官にお会いしたのは、学生時代に友人2人で九州に旅行した時。居住地の関西からフェリーに乗り大分別府へ。そこでレンタカーを借り、日向路を南下。
あれは忘れもしない鹿児島での出来事。2人とも貧乏旅行だったので、宿泊代をケチっていた。初日に大分から一気に南下し、夜遅くに鹿児島に着いたので宿を探す気力もなく、車中で寝ることになった。市内で車を停める場所をあちこち探すが、さすがに都会で、適当なスペースは見当たらない。今と違って道の駅などはなく、車の中で寝るという文化もまだ浸透していない時代のこと。
そうこうするうち、とあるマンションの近くに大きな駐車場を見つけ、車が停められそうな場所を探し求めてぐるぐる回った。
マンションの住民の迷惑にならないよう、ようやく片隅に駐車し、2人でやれやれと寝入って30分もした頃、懐中電灯に照らされて、何者かがウインドウガラスをコンコンと叩く。
「開けてくださーい」
何者が来たかと友人と顔を見合わせるも、訳も分からずウインドウガラスを開ける。
そこに居たのは私服のおじさん2人。刑事ドラマのように、警察手帳を水戸黄門の印籠のように見せ、「鹿児島県警です」とひとこと。わー本当に刑事ドラマのように手帳を見せるのだと当時21歳の若造には新鮮に移った。しかしなぜここに私服警官が?
ここに来る前まで人身事故をした訳でもなく、窃盗を働いた訳でもなく、痴漢や誘拐もしていない。ここに警官が来る理由がわからない。
その警官は強面でおもむろに言った「近所の方から、怪しい車がうろうろしている、と通報がありましてね。あー免許証を拝見できますかー」
我々が車でうろうろしているのを不審に思ったマンション住民が通報したとのこと。これはいわば職務質問なのだ。
再び私服警官。「あーなるほど、旅行ですか。あまりこういう所に車を停めて寝る人はいないので気をつけてください。今日はいいですが。明日の朝は早く出発してくださいね」。最初は厳しい表情だった警官2人も、旅行者ということで、特段のお咎めなしで終わった。
我々も「はー」とか「わかりました」など、気の無い返事でしおらしく従うしかなかった。しかし別に悪いことをしている訳ではないので、安堵感の方が大きかった。
「事故のないよう、安全運転で九州を楽しんでください」2人はそう言って爽やかに去っていった。ねちっこくなくていい。さすが西郷隆盛のお膝元、薩摩隼人の気質になぜか心惹かれた。友人ともやれやれと言って眠りについたが、私はあまり寝付けなかった。
職務質問は本当にあるんだと、初めての経験に興奮するとともに、見知らぬ土地でうろうろするのは、不審者に思われるのがオチだと深く反省したのであった。
でもなぜ制服警官ではなく、私服警官だったのか。その謎は今も解明できていない。