笑顔漢字日記

全ての漢字を笑顔にしたい。そんな思いで常用漢字2136文字を目標にエッセイを書く無謀な北海道在住のアラ還オヤジ

今日の漢字359

今日の漢字は「舟」。小舟、渡し舟、舟小屋、丸木舟、舟歌by八代亜紀

   船と違い、せいぜい10人も乗れば満員になるような、質素で素朴、船頭付きの乗り物を想起させる。

 このイメージは、これから決闘に赴く武士が、小舟に一人乗り、船頭が後ろでゆっくりと櫓をこぐなか、集中しつつも緊張気味に乗っている姿。黒装束に身を包み、左には名刀を携え、凛とした視線で川岸の向こうの決闘場に待ち構える相手を睨む。そんな雰囲気に「舟」という乗り物がふさわしい。

 といっても現代の舟にはそんな悲壮感や緊張感など微塵もなく、せいぜい観光用の渡し船が、お客を載せて周遊する程度か。

 そんな観光を兼ねた舟へ乗車体験は、京都の保津川の川下りと、福岡県柳川市の堀巡り。特に柳川の舟は趣があった。

 学生時代に遡ること30年以上も前で忘却の彼方の感はあるが、九州への一人旅の際に、柳川を訪れた。

 柳川は、柳河藩のお城である柳河城に巡らされた堀や水郷を約1時間ほど舟下りする旅。この町は堀割が幾重にも張り巡らせており、城が利水や防御目的で作られたそう。延長は60キロに及ぶという。

 西鉄柳川駅の近くに船着き場があり、どんこ舟と呼ばれる舟に乗ってスタート。ゴールは柳川が生んだ詩人、北原白秋の生家の近く。

 丁度私が訪れたのは、春2月。九州といってもまだ寒く、舟にはこたつが設えれてあった。こたつに当たりながらまったりと町を堪能できるのは良い。この日の乗客は5~6人ほどで、こじんまりと出発。船頭が見事な竿さばきで舟を操りながら、柳川の歴史やあたりの景色などを解説をしつつ舟を漕いでいく。非日常に身を置く気分で旅情を掻き立てられる。

 堀や水郷がある町、例えば松江城や倉敷、佐原の堀など、水運で発達した町は風情があっていい。

   北海道人である私は、地元の歴史が浅いこともあり、こういう所に来ると、歴史や文化の重層性にいたく感心する。私が内地の歴史、文化的施設のどこに行ってもワクワクできるのは、そこの風土や人々が育んできた歴史の長さ、培ってきた文化に大いに惹かれるから。内地の人が大自然を見たくて北海道に来るように、私は逆にお城や神社仏閣、偉人の記念館など歴史施設のある内地が大好きなのである。

 舟はのんびりと堀の中を進む。道端から手を振る小学生がいたり、家の軒先で洗濯物を取り込む主婦がいたり、観光地化している割には庶民の生活も垣間見れて自然と笑みがこぼれる。お仕着せでない、普段通りの町の生活の息吹が感じられる。

 途中橋のけたが低く、船頭がスレスレに頭を屈めて橋の下を通り過ぎるのも微笑ましい光景であった。ゆっくりと川を下るのは、時間が悠々と流れる感じがして何か徳した気分。

   いつも慌ただしい毎日を送る我々に、たまにはのんびり舟に乗って落ち着けと、神様は言っているような気がする。

   乗船は1時間で終了し、あとはお楽しみのグルメ。柳川と言えば鰻が有名。舌鼓を打ち、すっかり柳川の観光を満喫したのであった。

   激流下りのように慌しさやダイナミックさもなく、観光遊覧船のように湖水を悠々と進むでもなく、本当にのんびりと川の流れにまかせて進む舟は、現代人が普段行っている、せっかちで慌しい生活へのアンチテーゼでもある。ひととき現実から離れ、何も考えずにとにかくまったり、ほっこりする体験ができる舟の川下りはお勧めである。

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矢切の渡しには舟が似合う