今日の漢字356
今日の漢字は「愚」。愚弄、愚行、愚昧、愚息、暗愚、愚の骨頂、愚か者by近藤真彦。
スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で、卒業生に向けた有名な言葉に「Stay hungry,stay foolish 」(ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ)がある。
「ハングリーであれ、愚かであれ」。
フーリッシュを「愚か」と訳すかどうかは、ネットで様々な意見がでているので詳細は省くが、私なりの解釈は、「無知であることを自覚し、知的好奇心を忘れずに己の欲すべきテーマを貪欲に探求せよ」だと考えている。
常識を破り、どうすればユーザーやお客さまが喜ぶかを常に徹底的に考えた彼の思想は、結局のところ、自分は愚かな存在であることを自覚し、素直に学ぶことが自分のためだけではなく、人のためになるのだという自分の経験にもとづく魂の代弁だと思う。ソクラテスの「無知の知」に通じるものがある。
「愚かであれ」という言葉は、スタンフォード大学の優秀な卒業生からすると、バカにされたようで、「あなたに言われたくない」と反発を受けそうなものだが、スティーブ・ジョブズの経験と実績から裏打ちされたこの言葉は重い。月並みだが、大学で学ぶだけでは足りない、社会に出てから学ぶことの方がもっと大切なのだということを彼は言いたかったのではなかろうか。
彼は他にもこう言っている。
「毎日を人生最後の1日だと思って生きていこう。そうすればいつの日か必ず間違いのない道を歩んでいることだろう。やがてその日がやって来るから」
スティーブ・ジョブズは禅を愛したが、1日を大切に生きる発想は禅から来ている。日々を大切に生きろというメッセージを、「毎日を最後の1日だと思え」と強烈なパンチを放っている。これから輝かしい未来を担う卒業生への言葉としては、少し違和感があるし、強烈だ。
スティーブ・ジョブズが愛した禅は、「今、ここ」にちゃんと佇むことができるかという視点で動く。未来でもなく、過去でもなく、「ただ、今」に集中する。その気持ちを常時持つことが、1日1日を大切に過ごすことにつながる。
それは日本の侍にも言える。
日本の侍も「今」に生きた。それは死を片時も忘れなかったから。葉隠の中に「武士道というは、死ぬことを見つけたり」とある。何かの問題でも起きれば、責任をとっていつ切腹させられるかわからない。さらに、いつ何時、戦になっても命をなげうって主君のために戦う覚悟でいた。常に死に直面していたから、命の尊さに気付き、一瞬一瞬を大事に生きていた。
江戸時代の武士から現代社会をみれば、長寿の秘訣だの年金だ介護だ、将来が暗いだの、何を明日をも知れぬ未来のことばかり嘆いているのかと呆れられるのは間違いない。
今の命を大切にしないでおいて、何が未来の人生だ。と大喝を入れられることであろう。
ちょっと話が脱線したが、スティーブ・ジョブズが若者に言った「学べ」「今を生きろ」は、どの世代にも通じること。知的好奇心をもって学び、通暁し己を高めろ。過去も未来でもなく、今、この時を生きろ。この言葉は、どの世代へのメッセージにもなる。現代の多くの人が見落としがちな点に、スティーブ・ジョブズは見事に警鐘を鳴らしていると言えよう。